横溝正史「八つ墓村」

八つ墓村 (角川文庫)

八つ墓村 (角川文庫)



 これはすごい…。
 シリーズ最高傑作なんじゃないの…*1。とにかく面白くて、ぐいぐい読まされてしまう。息もつけない展開とはこのことです。本を読みながら主人公に同調して、映画でも見ているようにドキドキハラハラしてしまいました。そんな風な疾走感を覚えるのはいつぶりだろう*2あーすごかった。面白かったです。実に!
 最後の謎解きを任されているのは探偵・金田一耕助ですが、物語は、ひょんなことから謎の連続殺人の渦中に巻き込まれていく男性の視点で描かれている。彼に向けられる嫌疑、追い詰められていく過程を、彼の手記として詳細に描いているこの物語は、探偵小説(ミステリー)というよりは、ホラーのような手触りがあります。

 映画化した作品としては、漠然と「犬神家の一族」の方が印象に強いのですが。こちらは事件の道具立て?が一つ一つ派手で、映像化した時のインパクトが強いんだね。ビックリ箱を開ける時の驚きに似た怖さというか。
八つ墓村」は、一つ一つの事件の道具立てこそ派手ではないものの、主人公の心理描写を追って丁寧に描かれている作品なので、じわじわと追い詰められていく、ひしひしと迫ってくる恐怖があります。怖さの種類が全く違い、どちらも非常に面白い作品です。
 よく言うことですが、私は個人的に「告白体」*3の作品に弱いので、手記の体裁をとって語られる、この「八つ墓村」は、非常に面白く、楽しんで読みました。ああ、やっぱり名作として名の残っているものは、ポテンシャルが違うなぁ! とりあえずシリーズの既読作品の中で、横溝作品を薦めるとすれば、私はこれをお薦めする気がします。*4

*1:この人はまだ金田一シリーズを5作しか読んでいないわけですが

*2:過去のそういう経験を思い出そうとすると、「屍鬼」(小野不由美・著)まで遡ってしまう自分がいる。どんだけ昔の話だそれは。「屍鬼」、私はハードカバー発売後、わりに間もなく読んだ派なので相当昔です。長編ホラーですが、非常に読み応えのある面白い作品なので、未読の方はこちらも是非。

*3:便宜上勝手に名付けましたが、手記や手紙、実際の告白などの形を取って物語られる文体のことです。恐らく普通の三人称で描かれる作品より、視点が一つに限定されていて、感情移入がしやすい為、とりわけツボを押していくのだと思われます。

*4:友達の趣味嗜好を知っていれば、「夜歩く」を薦めることもあると思いますがw