「噂の男」

脚本:福島三郎、潤色・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ、漫才台本:中川家
出演:堺 雅人、橋本じゅん八嶋智人山内圭哉橋本さとし、他

 感想遅すぎてすみません(;´Д`)ノ。見ること自体はわりにリアルに近いタイミングで見ているんだが、なかなか感想を纏めるというところに漕ぎ着けません。まあそんな話はどうでもよろしい。舞台の感想でございます。
 昨年だったかと思いますが、やはりWOWOWの演劇情報番組において、この舞台の稽古場の風景などを放送していたことがあったのですが。じゅんさんとさとしさんが、稽古場の外で二人で熱心に「漫才」をしていたことが大変印象的でございましてw 劇場中継されることがあれば、なにを置いても見ねばなるまいと心に決めていた作品でございましたことよ。
 なんといっても、この顔触れ。個性派として各種舞台で活躍しているキャスト陣に加え、脚本と演出も名前の知れたお二方。これで面白くないはずはない、最初から期待値が高くてかえってハードルが上がってしまうほど、個人的には最高の顔合わせの舞台でした。楽しかった。とても楽しかった!!(二度言う)



 作品の舞台は、とあるお笑いの劇場のステージ袖。打ち合わせをしたり、稽古も出来るようにと設けられた小さなスペースで、物語は過去と現在を行き来して謎を孕みつつ進む。
 登場人物は、その劇場に出入りするお笑いの芸人さんや支配人といった人々。それぞれがそれぞれ、表に見せている顔と、誰にも言わず隠している裏の顔がある。誰もが一様になにを考えているのか判らない。少しのすれ違いが終盤に大きな齟齬として血みどろの展開となって、人々の上に圧し掛かる。ブラックユーモアあふるる意欲作(本当か?)。

 非常に不気味で恐ろしく、と同時に非常にコミカルで笑える一面もある、一言では言い表せない作品でした。中継の最後に出演陣の対談風景が放送されましたが、その中で言われていた「サスペンス・コメディ」という表現が、しいていえばやはり一番近いのかなと思う。「判りやすくて、同時に判りにくい」、「親切でもあり不親切」だというようなことを出演者に言わしめるのは、作中の人物が誰一人として、割り切れた感情を抱いていないからだ。
 表の顔と裏の顔があるなどと言うと、すぐ「二面性」という表現をしがちだけれど、実際に人間の感情はそんなに簡単ではないし、第一二つに割り切れるようなものでもない。表と裏、の間には幾つもの顔があり、それを結ぶ感情があり、それらは全て繋がり合っていて、どれか一つを断ち切れるというものではない。その「人としての当たり前の『割り切れなさ』」が作中に充満しているから、この作品は判りやすくて判りにくく、親切でもあり不親切でもあるという、相反するものを同時に帯びるのだろう。

 あの舞台にある対比するものを、敢えて判りやすい言葉で表せば、たとえばそれは理性と狂気、愛と憎しみといったものだろうか。でもそれらは、どちらか一方を取ると、もう一方が取れなくなるというものでは、多分無いのだ。
 生きて、あの物語の「現在」に存在している登場人物は、物語が進んでいく中で強い感情に支配され、残酷な現実の前に救いもなく、ある者は惨いほど叩きのめされ絶望し、ある者は故なく死に、ある者は狂う。けれど絶望しながら、狂いながら、生きている限り、人は複雑なままだ。
 登場人物の中に様々な形で芽生える強い感情は、決して一つのものではなかった。人を殴り殺そうと思うほどの怒りは、同じだけの悲しみから生まれていたし、狂気に理性を売り渡したように見えた人は、その狂気の中から、とても冷静に人々を観察していた。彼等の中では常に、相反する強い感情が幾つも綯い交ぜになっている。
 演劇という、記号的にわかりやすく整理した感情を表すのでなく、徹底的に割り切れない、どっちつかずの揺らぎを抱いたままの当たり前さ。そういう当たり前の人間の表す、どうしようもない生々しさ。あくどさ。その揺らぎが、あの物語の根幹そのもののように感じた。

 本当の狂気は、案外とても静かで冷静なものなのかもしれない。理知的な部分を残しながら、同時に狂気を抱けるのかもしれない。暴力的で残虐な破壊の衝動は同時に、大切なものをいとおしむ慈悲と共存しえるかもしれない。多分、人の感情は、人が思っている以上に複雑な襞をもっており、思っている以上に大きな容量をもっているのだろう。人間の思考は複雑になりすぎて、どんなにあらゆるものを削ぎ落として単純化したとしても、一つの感情だけの存在にはなりえないのかもしれない。
 あの物語の中には過去に死んだ芸人の幽霊が出てくるが、本来現実のものとしてはとても割り切れない存在であるその幽霊こそ、もしかしたら現実の生から解放された分だけ単純で判りやすい、明確な存在なのかもしれないと思った。生きている人間の方が、幽霊よりも、説明のつかない複雑怪奇な化け物じみた存在ということなのかもと。



 と、まあなんとなく真面目な話はさておいて。
 この舞台で上記のような物語そのものについての感想以外で、特に印象に残ったことは、山内系哉さんの髪の毛でございました。山内圭哉さんが珍しく髪の毛のある役を演じていらっしゃるー!*1 なんか新鮮! ていうか幼さかわいさ2割増w
 あとは、あのメンバー内における橋本さとしさんの立ち位置だな! 想像を超える、いじられ全開ヘタレっ子配置でもっそい吃驚w 皆楽しそうにさとしさんをいじっているようで、オフステージでの様子が目に浮かぶようですwww

 出演陣が「あのメンバーで舞台をやれることが、とても大きな出来事だった」というようなことを語っていて、「また機会があれば、このメンバーでやりたい」と言っていたので、その機会を、こちらも心の底から楽しみに待っていたいなと思います。

*1:スキンヘッドの印象が強烈なもので