Akeboshi「Akeboshi」

Akeboshi

Akeboshi

 音の専門家には、頭の中に沢山の引き出しがあって、状況に応じてその引き出しからストックを引っ張り出してくる。一度そうした人のなにかのインタビューで、「『たった一音だけで、人を絶望させる音』の、とっておきのストックを持っている」という話が出ていた。
 一音だけで、人を絶望させる音。ぱっと想像することは難しいが、それっぽい音というものは存在する。それを聞いただけで、はたと胸に冷たいものが差して不安になるような音。そうした音作りを得意とする人が、そうしたことを職業とした人にはいて、私達には判らないような様々なシーンで活躍しているのだろう。
 私は音楽にも、そういうアーティストがいるような気がする。
 別にアーティストが自らそれを作ろうと意識して、そうした音楽を作っているのではないかもしれない。だとすれば、「聴く度、不安の底を覗いたような気分になる」などという感想は、迷惑極まりないに違いない。でも私にはそういうアーティスト、あるいはそうしたアルバムや楽曲が確実にある。聴くと不安を掻き立てられると判っていて、たまに思い出したようにそれを引っ張り出して来ては聴き、不安の底を覗くのです。ごく個人的に、そうしたアーティストや楽曲のことを、「不穏系」とカテゴリ分けしています(笑)。

 Akeboshiも、聴くとハッピーになるというよりは、聴くとどこか自分の弱い部分にさっと風が吹いて、その表面を撫でていくように感じる音だなぁと思うアーティストの一人。全ての楽曲がそうだというわけでもないのだけど*1、不安になると判っている曲を聴いて、判っているのに「うわぁ…」と柔らかい部分の形を指先で辿られるような不安を、毎回新鮮に味わいます。

 一時期ずっと繰り返し聴いていて。引っ張られて暗くなりすぎて具合が悪くなる勢いだったので、しばらく聴かなかったのですが。久しぶりに聴いてみました。「tall boy」のイントロの、遠くに薄く重ねられた高音の不穏さとか、1フレーズ終わった後に、絶妙なタイミングで滑り込むピアノとか、何度聴いても堪らないね。すごいボディブローのように効いて来ます。あっという間に絶望の淵に佇んでいる気分になれます。サビメロはメロディアスで非常に美しく響くのですが、それ故にイントロや間奏の不穏さが際立つというか。もー毎回ひーひー言う勢いで、怖くて泣きそうで嫌な気分になりながら「たすけてー」と思いながら聴く。ちょっとしたマゾですかそうですか。マゾ、楽しいよ?(笑)
 ケルト音楽って、ちょっと寂しげな雰囲気がある気がするよね。そういうのをベースにしているから、akeboshiの楽曲の不安感みたいなものが一層際立つのかなぁ。


 ちなみに私がその他に「不穏系」と勝手に称しているアーティストは、たとえばhayden、sealとかです。楽曲単位なら、結構一杯あるので書ききれない(笑)。でも楽しいとか寂しいとかのスローガンが並べ立てられたメジャー*2な楽曲より、声とか音とか、たったそれだけで不穏というような、ちょっとマイナーな楽曲の方が、最終的にはインパクトが強くて、印象に残ります。「音」楽だから、なにがしかの方向に音そのもののポテンシャルが高い方が強い、という感じか。一音に託された意味が、より強い方が、届く、というか。
 まあ単純に、傾向として「暗い」音作りのアーティストってのもいると思うんですけど。それとはちょっと違う感じで。うーん、うまく説明出来る話じゃないんですけど。あくまで、ごく個人的な話として、ね。そういうのが嫌いじゃないです。
 先日お友達がradioheadについて、ちょっと似たようなことを書いていて、「うんうん、そうだよね、radioheadも他の追随を許さない勢いの不穏系だよね!」と、一人勝手に納得したのでした。私の中でradioheadは典型的な不穏系です。圧倒的に不穏系、キングオブ不穏系。←しつこいよ。

*1:わりに穏やかに、明るい気持ちで聴ける曲もありますよ!

*2:楽曲の曲調とかコード的な話ではない