谷崎潤一郎「痴人の愛」

痴人の愛 (新潮文庫)

痴人の愛 (新潮文庫)

 大正時代に書かれた話だと思うと、衝撃がいや増す谷崎の代表作の一つ。
 ナオミの、女としての恐ろしさを読むか。それとも主人公・譲治の、男としての愚かしさを読むか。どちらにせよ、大正時代も現代も、男女の間に生まれる恋愛の感情や、それに纏わる齟齬、男女の本能的な差異といったものは普遍的だということがよく判る。2006年の現代に読んでも、一向にお話のテーマが古びていない、このすごさに改めて舌を巻く一冊です。ナオミの、そして譲治の関係が今読んでも古くなっていないからこそ、この小説はリアルに「怖い」のです。
 思ったんだけど、この二人の関係はなんていうんだろう…、共依存? 違うか。こうした関係性って、案外普通にありそうなだけに、「病んでいる」感じが身につまされます…。



 それにしても谷崎の文体の、なんと読みやすいこと! 以前に他の作品を読んだ時にも思いましたが、今回改めてその文体の「平易な美しさ」に気付かされましたよ。本当にさくさく読み進める読みやすさなので、高校生などの皆さんの、読書感想などにいいかもしれないなぁと思います。いやもっとも「痴人の愛」だと、どんなに読みやすくとも、内容的に感想が書きにくいところもあるかもしれませんが(笑)。
 これで「あまりにもメジャーすぎてかえって今更手が出しにくくなっていた本」リストから、一冊消すことができます。ははは。これからも地味に一冊一冊、自分リストを潰していく心意気です。読んだ本は他にもあるんだけど、感想が案外追いつかないなぁ。