ハチミツとクローバー10巻

ハチミツとクローバー 10 (クイーンズコミックス)

ハチミツとクローバー 10 (クイーンズコミックス)

 いやー。終わりましたね。とうとう。連載雑誌を移って移って三誌目でようやく完結。よかった…無事完結して本当によかった…! 雑誌廃刊で連載が事実上の打ち切り状態になるとか、正直よくある話だけにびくびくしましたよ!
 最初恋愛モノとして始まり、世間的にも「それぞれがみんな片思い★」という広告のわりに、あまり「恋愛ものっぽい鬱陶しさ*1」がなくて、非常に読みやすかったです。私には珍しく、「ノーマルな、比較的オーソドックスな?少女漫画」の中で、真面目に継続して読んで、且つ楽しい作品でした。面白かった。



 この作品は、どういう風にも読めるところが強みだったのかなと思いました。切ない恋愛をしている人にとっては、竹本君や山田、真山の抱える片恋がもどかしくも愛しいものとして同調でき、人生に迷っている人には、竹本くんの自分探しが他人事に思われず。今そんなに恋愛アンテナが張られていないという人にも、誰かしらの抱える何がしかの感情にシンクロすることが出来る。そんな感じ。
 逆に言うと、主人公の欠如した作品とも言えるのかもしれない。一応竹本君が主人公なんじゃないかと思いますが*2、作品の中で常に彼が中心にいたかというと、全然そんなことはない。寧ろ、途中からは山田が主人公? それとも真山? と、それぞれの場所でそれぞれに進行する恋愛(ないしそれに準じる出来事)が描かれ、竹本という主人公は完全に不在だった。竹本を主役した場合、ヒロインであるはぐも同様。途中からは、主人公とヒロインの二人をおいやる勢いで、山田と真山を軸にした物語が展開されていました。更にそうした先で、野宮という人物が描かれ、森田の過去とそこに深く関わる兄が描かれして、その都度、物語の語り部はバトンをリレーするように移り変わっていた。
 そういう意味では、「主人公を軸とした一つの物語」としての強さはなかったのかな。一人の人物に深く感情移入したい人にとっては、求心力のようなものは、もしかしたら弱かったかもしれないとも思う。一人の人物に集中するべき力が、複数に向けられている分だけ拡散してしまっていたと言えるような気もするから。四方八方へと散らした力を、最後一つの場所へ集約していく為に、「ああいう悲劇的な事件*3」が必要だったのかなと、完結まで読み終えた今では思っています。

 竹本、山田、真山、野宮、森田、花本先生、その他の全ての人物、それぞれの語り部の物語る感情がすべて、「一つの物語を構成している要素」で、それらを集めて足すと一になる。
 当たり前といえば当たり前ですが、竹本だけを描いて一つ、山田だけを描いて一つの物語にするやり方も出来るはずで*4。だけどこの物語は、この物語はそれをせずに、あちこちで進行・発展する物語に、物語に必要な構成要素をちりばめて、ゲームで言えば「あちこちを歩き回って集めた要素で、フラグが立つ」ような作りだったという気がします。
 書き手さんがこの点に関して、意識的だったか無意識的だったかは判りませんが、私はそうしたやり方が、「いかにもの恋愛モノ」としての重苦しさを軽減してくれたので、非常に読みやすかった理由の一つになったように感じている。



 私は全編を通して、概ね男子にフォーカスがあっていたように思います。竹本くんの自分探しとか、森田の誰にも打ち明けなかった過去、森田の兄の抱えた愛憎半ばな感情とか。自分でも覚えがあるよーと思いつつ読みました。ほら、青春小説とか好きな人間なんで、少年が、ないし少女が成長するところが描かれるのを見るのが楽しいし、好きなんです。この作品の中では、男性キャラの方が比較的きちんと「成長」を見せていた気がする。花本先生がずっと躊躇い、諦め、踏み出し方をずっと忘れていた「一歩」を、踏み出してくれて本当によかった。最後に彼がきちんと幸せな笑顔になるのが嬉しかったです。←花本先生は作中で、そうした「拾われ方」をしないと思っていた…。



 そして最後に。山崎に幸あれかし、と。記して長文感想締めたいと思います。山崎、強くイキロ!(笑)

*1:すみません、こんな言い方で…。少年漫画かヲタク系漫画しか読んで育ってないダメわんこがここに…!

*2:最初と最後が竹本くんの描写で終わるから

*3:はぐに降りかかった災難の意。詳細は未読の方の為に避ける

*4:そしてそれが多分、一般的なやり方だろうと思う