横溝正史「本陣殺人事件」

本陣殺人事件 (角川文庫)

　この表題作「本陣殺人事件」が、金田一耕助最初の事件になる、のかな。事件の被害者の一人が、金田一耕助のパトロン役・久保銀造の娘だったことから、銀造に乞われて出馬。事件を解決をしていきます。
　作中、久保銀造視点から、金田一耕助との出会いのようなものが多少語られていたりして、金田一耕助という人物の「人となり」が小出しになっている、三作を収録した短編集です。
　長編作品では、事件に関わる多くの登場人物がみな非常に個性的なので、金田一耕助という登場人物は完全に埋没している。没個性というようなキャラクタではないと思うんだけど。いい意味で、事件の解決のみに目立つ場所が与えられている探偵なんだろうと思うんですけど。
　でもこの本のような短編だと、久保銀造との関係や、金田一シリーズの語り部としての作家が実際キャラクタとして登場して金田一と顔を合わせるシーンがあったり、同じく収録されている「黒猫亭事件」では、親友とおぼしき男の登場もあり。金田一耕助という「キャラクタを立たせた」お話作りがされていて、謎だった金田一耕助が少し判って楽しい一冊です。
　金田一シリーズとして有名なのは、やはり長編が多いでしょうが、「金田一耕助」という探偵を知りたい人には、長編作品より短編作品の方が、あるいは面白く、楽しめるかもしれません。長編の、著名な作品群とはまた違った魅力があります。面白かったー。

　…というか、「黒猫亭事件」は話に聞く以上に、ものすごい威力でしたよＭロさん…(ごめんなさい、こんなところで超名指しで…)。