木村元彦「オシムの言葉」

 今更ですが、読んでみました。「サッカーに関する本」でしたが、私にはそれよりも「ボスニア紛争に冠する本」としての印象が強かったです。
 戦争が齎す悲劇、などというのは簡単だけれど。民族紛争の中でサッカーという文化がどのように影響を受け、またそれに纏わる人達がどのような被害を被ったのか。オシムのサッカー観を語るには、彼の経歴をなくしては語れず、そしてその経歴を語る為には、戦争の記憶を振り返らずには済まない。彼の人生に望むと望まざるとに関わらずついて回ってしまう影。恐らく容易に言葉で表せるものではなく、実際には本で文章として書き表したものの何倍も多くの傷を齎しているのに違いなく。それを思うと読んでいて正直つらかったです…。
 サッカーの試合が問題なく催されて、それを観戦できるということは。平和であるということは、とても幸せなことなんだ。改めてそう思えた。読めて良かった本でした。

 勿論、そうした戦争に纏わる部分以外で、オシムのサッカー観から生まれるエスプリ溢れる言動などについても、色々丁寧に書かれています。面白いし、非常に平易に判りやすく書かれているので、サッカーに興味のない人も、普段あまり本を読まない人も、充分楽しめる一冊じゃないかと思います。