三浦しをん「格闘する者に○」

格闘する者に○ (新潮文庫)

格闘する者に○ (新潮文庫)

 三浦しをんのデヴュー作。これまでに幾つか彼女の本を読みましたが、個人的にはこれが一番素直に楽しめて、読後に面白かったと思ったのですが。それはなんだろう…、主人公が直面する問題や乗り越えていくものに、明確な名前が与えられていないからかもしれないなと思いました。核心を敢えて外して、その周辺を撫でるように描くことで出てくる空気感みたいなもの。そういうものが、この作品では適度に心地良い。いかにも主人公・あるいはその友達の周辺にある空気、あるいは彼女達を包んでいる周囲の温度みたいなものが、「書かないことで描かれる」。野球でいえば、ストレートでじゃなくて、変化球で取るストライクみたいなものを感じます。
 物事の核心に直接的に向き合わない・触れないという作風は、時と場合によっては、きれいに済ませられてしまう分だけ物足りなさや安易さを覚える場合もある気がするのだけど、だからこそ狙えばツボに嵌る書き方なのかもしれません。優しい手触りのちょっと心のほっこりする、でも時々妄想全開の(笑)、青春小説でした。