鷺沢萠「私の話」
- 作者: 鷺沢萠
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2005/10/05
- メディア: 文庫
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三章からなるこのお話は、彼女自身の結婚や離婚、母親の病気、祖母のことなど、色々が率直に語られている。他の作品でもしばしば語られているように、十代の頃から有事*2に慣れて来たという彼女の、まさに「台風」の真ん中にいた頃の心境など読むと、それこそへっぽこな私には言葉を失ってしまうようなところがあります。
私は十代の頃に、彼女の描く思春期小説に出会って、すごく影響を受けた部分があって。彼女が亡くなった時は、かなりショックでした。ただ、それまですごく一生懸命、一切手を抜かずに生きて来たらしい彼女のことが脳裏に過ぎって、なんとなく、言い知れない溜め息が出た。
今回の本を読んだ時も、なんというか、もう溜め息ばっかりが出ました。一章のお母様の病気の話もそうだし、三章のハルモニとの交流の中で彼女が感じた色々なこともそうなのですが。私は特に何が起こるでもない二章が、一番しんどかった。自分の今までして来たことが露悪趣味なんだと気付くところとか、今思い出しても泣きそう。欲しくて得られないものに対する捩れた感情って、誰にもあるけど、大概見て見ぬ振りをして、気付かないように通り過ぎて行ったりするのじゃないかな。もし気付いても、そこまで目を見開いて見つめ直す人って、どれだけいるんだろう。でもそれを瞬きもせずに見つめようとするのが、多分、鷺沢さんという人なんだね。それを失ったら、彼女は彼女じゃないんだろうね。そう思ったからこそ、溜め息が出た。
彼女の有事における圧倒的な強さは、へっぽこ人間である私にとって、いつもどこか眩しいような気がしていた。そんな風に強く生きられたらと思うからだろうかと、ずっと考えていたのだけど、多分それはちょっと違う。彼女の強さは危ういものだと否応なく伝わっていて、怖かったのだ。だからこそ、彼女の訃報を聞いた時、「やっぱり」と思ってしまったのだなぁ…。
鷺沢さんの書く「思春期」小説が本当に好きだった。今更ですが、ご冥福をお祈りします。