吉行淳之介「原色の街・驟雨」
- 作者: 吉行淳之介
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1966/10/24
- メディア: 文庫
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戦後という時代背景を実に巧みに描いた短編集。原色の街と驟雨は、どちらも娼婦に纏わるお話となっているが、どちらにも職業としての娼婦であるという心と、そうでない心の部分との相反する感情に、娼婦本人もその周囲も戸惑いを覚えたり揺れたりする。そうした様子を、修飾もあまり多くない、削ぎ落とされた文体で丹念に描写した話になっていた。
娼婦を描いたお話とはいいながら、これらの作品で描かれているものは、生の人間の感情の深部であり、人間同士の関わり合い方。そうした部分でこの話は、現在においてもまるで古びたところがなく、それが大変新鮮でもありました。
ところでこの本には「夏の休暇」という短編が収録されている。小学校に上がったばかりの少年と、その若い父親の過ごした夏を追った話なのだが、これがなんというか…身につまされるというような気持ちになってしまった。父から少年に向けられる時に理不尽な言動や、その一つ一つに纏わる少年の感情を丁寧に描いている。
父の言動を幼いながらに整理のつかないまま受け止めている様*1が、私にはどうにも生々しく、また理不尽な言動を示す父親のやりようもまた、人として非常に生々しく思われ、読みながら苦いものが湧きました。…個人的にこういう話はしんどい…。
次は再評価の熱が高まりつつある?三島を再読しようかな。
…思えば吉行作品の良さは骨子で勝負するような簡潔さ?、明晰さで。三島は明晰な文章ではあっても、修飾の芸術といった感もあるところを考えると、ベクトル正反対じゃないの?みたいな。いえ、全然そんなことは些細なことで、どちらも楽しめるし、素晴らしいのでいいんですけど(笑)。
*1:それは幼いからこそ出来る、素直な受け止め方というものかもしれない