身も蓋もなく語るということ。

 今日の試合後の監督コメントを見て、なんというか、ちょっと不安になったのは、監督の試合後コメントは選手の耳には「間接的に届く」ということです。
 試合が終われば、監督は選手に今日の試合のどこが良くて、どこが悪かったか、当然直接、話をするわけですが。監督コメントは、選手に向かって発される言葉ではないから、やっぱり間接的です。そして直接言われる言葉と、間接的に耳に届く言葉とでは、随分受け取り方(受け取られ方)が違ってきたりするものです。監督コメント自体が全文掲載されたとしても、ナマの言葉の持っていた細かいニュアンスは、どうしたって失われてしまう。そういう部分が、なんとなく、不安になるようなコメントに思えてしまいました。
 久しぶりのまとまったエントリが、相変わらず気持ち悪いまでの勝手な想像(というか妄想)で恐縮なんですけれども。以下はナビ杯の監督試合後コメントについて、思ったことなどをつらつらと語っております。



 これは恐らく、良い悪いの問題ではなくて、やり方・考え方の違いだと思うのですが。岡田さんは、特に試合後に発するコメントは、そういう影響を考えて言葉を選んでいるなという印象があったのです。それが高じて、その日の試合がどんな印象・内容であったのか、コメントから察するのが難しい場合もかなりあったような気がするくらいです。*1
 試合後、監督の仕事として、試合の総括をする。恐らくまだ完全に冷静にはなりきれていない場合にも、良かった点や悪かった点について聞かれて、それに答えることになる。記者の質問に対し、具体的な原因が判っていれば、はっきり答える場合もあるだろうし、敢えて答えない(言えない)場合もあるだろうと思います。
 ただ、悪かった部分について答える時、出来る限り具体的に、「あのシーンで、こうなったのが悪かった」という風に答える方が、多分、誤解を生まないだろうなと思ったのでした。もしスカウティングなどを考慮して具体的に言えない場合には、「具体的には答えられない」という旨を表明してしまう。その方が、言葉が伝わる気がします。この感じをなんと言ったらいいのか…。「具体的に言う」から「言葉の意味が伝わる」、のではなくて。「具体的に言う」から「言葉の心が伝わる」、という感じ。




 話が少々飛ぶようですが。「相手の嫌いなところ等を指摘する時には、大きな原因を一つ、出来うる限り具体的に、身も蓋も無く説明する」方がいいのだそうです。たとえば、
「あなたが嫌い」ではなく、
「あなたが、いつも洋服をだらしなく着ているから、嫌い」とかね。
 勿論、言われた方はショックです。オブラートに包んで直接的な表現を避けながら、互いに空気を察することをよしとしてきた日本の文化の中では、かなりショッキングな響きになります。言う方でも、結構な勇気が要る。相手が傷付くことが判るからです。
 それでも、相手を傷つけるのを恐れて「あなたが嫌い」としか伝えなかったとすれば、その言葉を言われた方では、なにがどう嫌いなのか判らず、結果として自分という人間が全否定されたように伝わってしまう。だから、相手を傷付けるようなことを伝える時には、相手に対して具体的な理由を一点述べる。そうすれば相手は「その原因を直せば、自分にも可能性がある」と、救いを見出せる、というのです。受け売りですけど。



 試合後コメントも、これに似たようなところがある気がします。
 たとえば誰かが、失点につながるミスをしたとする。監督が敢えて指摘せずとも、その選手は当然、自分がミスしたことをよく判っている。そういう時(フォローする場合はまた別にして)、監督は失点につながるミスについて、一切指摘しないか、指摘するならなるべく具体的に指摘してしまう方が、選手の方では受けるショックが一時的なもので済むだろうと思うのです。「あそこはしっかりマークに行くべきだった」とか。別に言葉はなんでもいいと思うんですけど。
 これをもし仮に、「今日はサイドが駄目でした」みたいな漠然とした言い方しかしなかったとすると、ミスした選手は、その日の自分が全て駄目だったような印象になってしまう。*2



 そういう意味で、以下の監督コメントは、正直結構聞き方によっては、凹む要因になりうるかもと思うのです。

「ゲームが始まってみると、なぜかトレーニングのパフォーマンスの40%も出せない。このことにびっくりした。」

http://www.f-marinos.com/topteam/report/?code=1174270238

 試合をするのは選手ですから、監督が思うようなパフォーマンスが表せなかったことには確かに問題はあるでしょうし、この時点で早野さんも具体的な原因が判らなかったのだろうとは思うのですが。とても漠然とした言葉に思えて、ちょっとどきっとしてしまった。
 パフォーマンスの40%も出せていなかったというのは、具体的にはどのような部分が悪かったのか。またパフォーマンスがそこまで落ちているのは何故なのか。そこを具体的に語らないと、今日出ていた選手は、条件もなく否定された気分になってしまわないとも限らない。そんな漠然さを覚えました。パフォーマンスが出せない選手が悪い、と一方的に責任を選手に投げたような印象が滲んでくる、そんな言葉のような気がしてしまったのです。
 勝った試合については、多少なにをどう言っても誰も気にしないでしょうけれども、負けた試合は選手も過敏になる。特に2節以降の試合の結果に、選手は恐らく今、相当ナーヴァスな部分を抱えていると思います*3

 こういう状況であるからこそ、監督の発したなにげない言葉が、万に一つも選手にネガティブな要素を与えて欲しくないなと思うのです。とにかくあられもなくつまびらかに指摘することで、具体的に指摘することで与えるショック以上の別のリスクが、回避できるのではないかとふと思ったのでした。まあ、こうして散々語った私が、一番身も蓋もなく語れないタイプなわけですが(わぁすみません)(思ったことが脊髄反射で口から出ているタイプなわりにな!)。



 今年は良くも悪くも、あまり多くは期待していません。言葉が悪いようですが、経験豊かな選手が多くいなくなり、新しい監督を迎えて大きく方向転換しようとしている年だから、簡単に結果が出なくても、それは仕方がない。あとは若手がどれだけ頑張って伸びてくれるか。それに賭ける、忍耐と辛抱の一年だと思っておりますので。選手の皆さんにはまだ始まったばかりのシーズン、モチベーションを落とさず、周囲の声に変に萎縮せず、踏ん張って欲しいと思っています。

 まずは選手の皆さん自身が自信を取り戻して、落ち着けるよう、とにかく「一勝」することですなぁ。

*1:ちなみに水沼さんのコメントに対する私的な印象は、正直で簡潔、前向きさをモットーとした発言をしているというものでしたよ

*2:…まあその、全てが駄目だという場合も…あるでしょうが…。しかしそういう場合こそ、一番の問題点を一つ具体的に指摘することで、その選手にとってはきっと成長する足がかりになるのだと思うのです

*3:いえ、何度も言いますが。試合をするのは選手ですから、選手に問題がないとは言いませんけれども。パフォーマンスやモチベーションを試合に向けてコントロールしていくのも、また監督の仕事の一部でもあるわけで