感情の表れるところ。

 昨年末からアニメ版「MONSTER」の補完をしておりまして。先日、やっと最終回まで見終わりました。nageeeeeeee!*1
 原作漫画の方は、私的に「読んだら間違いなく楽しいと思うから敢えて取っておこうリスト」の筆頭に上がるような漫画として未読の為(笑)、漫画の中での演出がどうなのかは判りませんが。アニメーションの「MONSTER」では、人が泣く*2シーンで、あごや口許の絵のアップから入る演出が、印象に残りました。たとえば人が泣く時、涙は目から流れるけど、実際には涙が溢れる前にも、顔やそれ以外でも多くの表情の変化があるし、感情は涙一つによって表れたり、伝わるものじゃない。
 でも最近、テレビのニュース(ドキュメント)映像では、人が泣くシーンは涙の「予兆」を映そうとせず、涙を流す、その瞬間ばかりを取りたがっているような気がする。

 映画やドラマといった作られた表現の中では、また違うと思うので。この場合には、実写の、フィクションでない映像、くらいの漠然とした限定で語りますが。泣くまでの感情の移ろいを全然拾おうとしない。最初から「涙」を撮りたがる。逆に言えば、涙という、何がしかの「クライマックス」の瞬間のみしか、撮ろうとしない、というか。悲しみでも喜びでも、感情の針が大きく触れるシーンがあると、目以外が枠に入らないくらいのアップに映して、判りやすい記号としての悲しみを、あるいは感動を映そうと、今か今かと待っていることが多い。こういう言い方は語弊があるかもしれないけれど、それまでの色々な状況を考えれば、涙は充分に想像がつくものだから、それはもういいんだよなぁと思う今日この頃です。
 アニメーションは、人の手によって作られるものだから、作り手が見る側の想像力や感情を掻き立てようとした映像作りになっている。当たり前だが、全てのシーンが計算されつくして構成されている。だからフィクションの映像とは、違っていて当然だ。比べるのがおかしいんだろうとも思う。でも、意識の向け方という意味で、やはりアニメーションの作りと、何がしかのノンフィクションの映像では、感情を切り取る際に、随分大きな違いがある。
 アニメーションは実際のニュースやドキュメント映像よりも、意図的に作りこまれている分だけ、映像の作りがはっきりと情緒的だ。そうした部分も含めて、表現に奥行きがあっていいなと思う*3



 で。そんなことを思って、またしても高校サッカーの中継のことを思い出し、考えてしまうのであります。
 ピッチに立っている選手一人一人に、それぞれ抱えるものがあり、ドラマもある。誰もが、そこに立てない選手の分のなにかを、意識的にも無意識的にも背負っているだろうし、それまでの自分の努力の日々の記憶と共に、そこに立っている。そんなことは説明されるまでもなく、充分想像しうることだ。けれど中継の中で、怪我で出場出来ない誰かの分までとか、なくなった肉親の夢をかなえるためにとか、変に煽り立てることで、かえって実際の彼等の実像からは、遠退いてしまうような気がしてしまうんだ。
 彼等が頑張り、喜び、悲しむ姿は、なによりも一つ一つのプレイであったり、得点で生まれる爆発的な喜びと、そこに生まれる歓喜の輪で、充分伝わるのじゃないかと。実況で多くを語り、アップで涙をこれみよがしに伝えることで、感傷的になりすぎるきらいがあるのではないかと。試合に負けてピッチに崩れ落ちる選手の、一人一人の悔しさや悲しみは、別に詳らかに言葉にしなくとも、映像に切り取ろうとしなくとも、俯いて小さくなった背中や、握り締めた拳一つで、選手の彼等の感情は充分感じ取れるのではないかと。

 顔は勿論、背中や掌、足の運びにだって、人の感情は滲んでいるものだから、寧ろカメラが選手から少し離れている方が、選手の多くの表情を捉えられるという意味で、こちらに感動を与える場合もあるのではないかと。思って。高校サッカーの、これでもかと与えられる感動秘話実況に、うんざりしちゃったり、しているわけですよ。そもそも、判りやすい記号的な映像ばかり繋いでいては、実際一番伝えたい何かが、結果かすんでしまうこともあるのじゃなかろうか*4
 勿論、それが全てではないし、やはり個々の選手の表情がよく見たいこともある。不必要ということではないですよ。ただ、それをわざわざ多用して、涙を乞う実況を差し挟んだり、露骨な悲しみの表情を切り取ろうと待ち構えなくても、そこ以外の部分にも、充分、感情を揺さぶる要素が詰まっているんだけどなと思ってしまう。

 涙の映像のように判りやすいカットでないと、視聴者が感情を感じられないのだと思われているのなら、随分見くびられているなぁと思うし、「涙を流す瞬間を取った」ということを手柄のように思って中継しているのなら、そのやり方は正直押し付けがましいだけではないかなぁ…。



 まあ、何が言いたかったかというと、「MONSTER」面白かったよ、ということです(長々語ってそれか!)。

*1:全74話=6クール=一年半分。一応、再視聴なんだが、今回もまんまと途中で訳が判らなくなりそうに…w

*2:あるいは怒る笑う等、感情の激する

*3:少なくとも、私にとっては好ましく感じられるということです

*4:いやもっとも、アニメーションでも作品によっては、露骨な記号的表現ばかり多用して、見るものをうんざりさせる作品もあるだろうけども!